メタバースと福祉
2022年11月26日に書いた日記です。
あれから2年が経つ。
もう充分、検証はできた。
未来を見届けたい。と書いていたあの日。
未来は、見届けるのではなく、未来を作るのは自分たちなんだと、今はそんな風に思う。
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場面緘黙症みいちゃんの日記 NO1398
~ アバターとメタバースと福祉 ~
少しとりとめのない日記になるけれど、残しておきたいとても大事な事を書き留めておく。
みいちゃんと私は、9月からの3か月間、メタバースの仮想空間でいろんな事に挑戦をしていた。仮想の世界で、次第にみいちゃんが変わっていく様子が、とても感じられた。何が起こっているかわからないけれど、この仮想空間は、不安が強い人達にとって、全く違う世界なのだと実感をした。
みいちゃんは、工房以外の人混みでは、未だに体が思うように動かない。パティシエになっている時間も、接客という部分だけはいまだに絶対にできない。
好きな事、作る事に関しては、体は問題なく動くようになっていた。
アバターという自分の分身を作って入って行く世界、メタバース。
リアル社会と同じ空間を作る事で、アバターで、リアル社会での訓練ができる事もこの3ヶ月で理解できた。
そして、この3ヶ月で、いとも簡単にみいちゃんは、仮想空間で接客ができるようになっていた。これは、とてつもない進化だと思った。
テクノロジーが医療を超えたという事である。
そして、私達は、メタバース上で出会った友達、仲間と次第にリアルで出会いたくなった。
そして、出会った。
初対面ではない感覚、いつも一緒に過ごしていたような感覚が残り、説明ができない信頼関係のようなものが、生まれていた。言葉で表せないとても不思議な感覚だった。
ここからは、未知のテクノロジーが、どういう理屈でどう脳に働きかけたら、できなかった事がいとも簡単にできてしまうのかを調べた私の考え。
みいちゃんのような子供達の未来が、そこに見え隠れするので、残しておこうと思う。
「身体所有感」という言葉がある。
調べると確かに色々出てくる。
「この身体は私の身体である」という自己の身体に対する意識の事とある。そんな事は、あえて言わなくても当たり前のように思う。
でも、こんな事例があるという。そういえば聞いた事がある。
交通事故で両足を切断した人いた。でもその患者は病院で
「足がかゆい」と看護師に訴えたと言う。
もう足がないはずなのに。
「身体所有感」が、機能しているのか、それともいきなり自分の足がなくなった出来事に自分の脳がついていけていないのか、私は専門化ではないのでわからない。
でも「身体所有感」というのは、私達は、日々の生活の中で、当たり前のように感じる感覚なんだろうと思う。
でも、その感覚、自分の身体は、自分の身体であるという意識なんていとも簡単に崩れ去る可能性があるという。
神経が麻痺した方は、急に体が動かなくなる。右半身が麻痺した方は、目に見えている自分の右手は確かにそこに存在しているにもかかわらず、なぜか自分の身体の一部である感じがしないという。
「私の身体の一部じゃない。 これ(右手)をどうやって動かせばいいんだよ!」
「体を管理していこうって言われても、存在を感じないからどうにもならないだろう」
私達にとっては本当に極当たり前な感覚である身体所有感。
それが、突然の事故などにより体の一部が機能しなくなった方にこの「身体所有感」が崩れ去ってしまう。
身体所有感が生まれるためのメカニズムは、調べてもとても難しい。
身体所有感とは一体どのような神経の信号で構築されるのか。
「目で見る視覚」と「体性感覚 体が受ける感覚」といった違う感覚が脳の「頭頂葉」で合体する際に発生する感覚だそう。
なんとかなくわかるような気もするけど、やっぱり難しい。
もう1つ、プロテウス効果という言葉。
「プロテウス」は、ギリシア神話に出てくる海の神で、変幻自在に姿を変えられる力と予言力を持っているという。メタバース上で、アバターという自分の分身を作り、仮想の世界に入る。そのアバターは、思いのままに形を変えられることから、これらが及ぼす影響を「プロテウス効果」というらしい。
研究で、アバターの外見によって、自分の行動が変わったり性格が変わったりする事があるという。それが「プロテウス効果」だという。男性が、女性のアバターを作り、女性として仮想空間に入ると、仕草やコメントが女性になる。ものごしもやわらかくなる。完全に感情がアバターに影響される。
確かに「プロテウス効果」というのは、あると感じる。
先日、ハロウィンで、モンスターのアバターになってみた。
近くにいる人をもっと怖がらせてやろう、と思ってしまう。普段の自分を忘れてしまう時があったりした。これもきっと「プロテウス効果」なのだと感じる。
3ヶ月間、メタバース上に存在してみて感じた事をここに残しておく。
■メタバース上での身体所有感
→アバターと実際の身体の動きが連動することで「この身体は私の身体である」と思い込むことができる
→逆にアバターの身体所有感が強くなると、物理現実の身体が希薄になる
■プロテウス効果
→アバターの外見がそれを使うユーザの知覚・行動・態度に影響を与える
→どんなアバターを使うかで、結果、行動や態度が大きく変わっていく
→実際の自分とは異なる見た目や能力を持つアバターでは、その見た目や能力のイメージに引き寄せられた自己を作ろうとする
(参考)賢いイメージのアバターをまとってテストを受けた場合、成績が上がるという事例があるという。
(参考)存在不安を解消するためのアバター
自分にはない強さや可愛らしさ等をアバターに演じさせることで、自分自身の存在の脆弱さを克服しようとする傾向があるという。
みいちゃんは、自分で自分のアバターを作った。
みいちゃんが、着ている服は、とてもシンプルなものだった。
Tシャツとミニスカート。髪の毛は、黒色。とても控えめなアバターだった。
でも1つだけ、そこに自分の意思が反映していた。
「好きな自分で生きていく」と書かれたTシャツを着ていた。
「好きな自分で生きていく」という服を着たアバターは、その言葉のとおり好きな自分の分身だったのだと思う。
プロテウス効果により、みいちゃんは、アバターでいつもと違う好きな自分になれた。
体がスムーズに動いて、カフェで接客ができた。ドリンクやスイーツをテーブルまで持っていけた。
未知のテクノロジーは、心の病を治療する薬以上の効果が得られるという可能性が見えたように思う。私はこの未知のテクノロジーにかけてみたい。
場面緘黙症の治療に、きっとメタバースは相性がいい。
もっというと、メタバースと福祉は、世の中を変える。
これまで、「うまく機能していない体を所有し、生きる制限が伴っていた人たち」が、これから立ち上がる。
私は、それを見届けたい。 みいちゃんの未来もそこにあるはずだから。