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ノンフィクション小説 第2話 ~映画のような実話~

2024/12/31

映画のような実話

 

杉之原千里 ノンフィクション小説 第2話

さて、栃木での続編です。

それは、まさに映画を見てるようでした。

2020年から数社のドキュメンタリーに密着いただき、番組製作に協力してきた事から、人を惹きつけるストーリーの作り方など間接的に学んできました。ドラマでも良い部分だけでなく、そこには、必ず落とし穴が待っています。

ドキュメンタリーもそうです。良い部分が多い中で、影の部分も作りこんで人をヒヤヒヤさせてきます。ノンフィクション本を執筆する時もそうでした。陰と陽をバランス良く配置させる必要がありました。

製作に携わってきた関係から、そんな事をまあなんとなく感じています。それが、まさに現実に起きてしまったというか。

これは、前置きとして。

みいちゃんが私に相談してきたのが、11月後半。

「栃木に行きたい。お願い!お願い!」

と。

根負けして栃木に行く事を決めたあと、その推し活のライブとやらは、私も入れるんやんな、と確認。

「ううん、1人しか当選してない」

な、なにを? え? 栃木まで行くのに、私は入れへんのか?誰が1人で行くの。

「1人でいける」

いけるわけないやろ。場所も人もしらんやん。

今まで1人で、出かけられた事なんかないやんか。

と食らいついても

「なんとかなる」

な、なんとかって、話せるようにならな無理やしな。

無理やって。

というやり取りがあった後に、平行線で解決せずまま、もう栃木に来たのです。その意気込みだけを信じよう、と。

会場まで送迎できたら、入場のギリギリまで立ち会って、そこで離れたら、まあ席にさえ座れればなんとかなるかも。

なんて思いつつ、異国の地。どっちがどっちか方向もわからんままの土地勘。東京からレンタカーを借りて栃木に入ったんです。

会場18時、開演19時

「余裕をみて17時半に現地に入りたい、グッツも買いたい」と言ったので、早めに到着するように車を走らせてました。道中は順調だったんですが、朝に東京をでて、栃木の山にいったん入ったんです。

みいちゃんが、滝を見たいと言うので。そこは私も行きたいところだったので、朝から行こう!となり、滝に向かいました。でも、この時点で、プランが少し甘かった。

標高1900m。道中になんと雪が積もっていて。山なので、坂道です。東京発のレンタカーがスタッドレスなわけがない。

ま、まずい・・と思うも、もうあとにも引けないとこまで走らせていて、むちゃくちゃ安全運転で、山を登ったわけです。

うわ、凍ってるやん! と焦る私に助手席で、全く心配してないみいちゃん。正直、東京から栃木の距離感もわかってなかったし、雪が降る時期と標高なんか全く気にしてませんでした。

まあ、結果、この第一関門は突破したわけです。

この滝、先の投稿で書きましたが、滝から力をもらえるよ、きっと変われるから行くといい、と言われてたどり着いた場所。

なんだかとても気持ちが良かったんです。空気も美味しくて。マイナスイオンをもらって

「ああ、なんか元気になった 頑張ろ」

となったわけです。

なんか今回の旅は、自分を変えられるといいな、とそんな風に思ってました。帰り道は、行きとは反対側に降りる道があり、除雪もされていて問題なく運転ができました。

さて、次は、みいちゃんのチャレンジです。道中で、ほんまに大丈夫なんかな、と心配しつつも会場の入口までいければ、みいちゃんの言うように、話せなくてもなんとかなるかもしれん、と思いかけていたのです。

「さあ、会場に向かおうか」

(うん)

「ほんまに1人で行けるよな」

(うん、なんとかなる)

「ほんまに困ったらLINEしいや」

(うん)

と道中の車の中で会話していました。

栃木の山から街に出る道は、夕方になるに連れ、混んできたんです。17時半に入る予定が、どんどん遅くなり、ナビの到着時間は、18時すぎに。

まあ、それでも開演時間までには着きそうでした。

もうこの時点で、充分だったんです。

みいちゃんが1人でもライブに行くと決めた事。それだけでも大きな大きな一歩で。今年は、サインも書けるようになり、人前に出ても身体がスムーズに動くようになった。

カフェのテーブル回遊もできるようになり、12月には、こんな風に1人でライブに行こうと思うまでになった。私が想像していた以上にみいちゃんは、成長した。

ほんと、良く頑張ったし、今日のこの日が来た事に感謝だよ、ほんとに。

とこんな順調でいいのかな、とさえ思ってたんです。

あと30分ほどで、みいちゃんのチャレンジの場を迎えるワクワク感でいっぱいでした。助手席に座るみいちゃんも、ワクワクドキドキしてました。

栃木まで来た甲斐があったな。つべこべ言わずにここまで来て良かったわ。なんとかなりそう。きっと。

と会場まであとナビであと30分というところで突然、やってきたのです。ゴール直前の障壁。

あれ?

みいちゃん、おかしくない?なんか・・

え・・やっぱりおかしい・・

車が激しく振動するんです。それがどんどんひどくなっていく。ボコン、ボコン、ボコン、ボコン・・・・

え・・・ まじ?

みいちゃん、やばいかも。

(なに、どうしたん)とみいちゃん

「やばい、あ、あかん、ちょっと・・無理や」

「タイヤみて、窓から」

「え・・え・・なんか、おかしい」

「えーパンクした」

ボコン、ボコン、ボコン、ボコン・・・・

3車線の街の中で、ボコンボコンと走れなくなったので、どこか止めるところまで行かないと・・と10キロくらいのスピードでハザードをだしてなんとか走り、焼き肉屋さんの駐車場まで行き車を止めました。

「降りて!タイヤみて!」

(はい!)

あああああああ・・・まじかーーーー

パンクや

あと会場まで車で30分。もうすでに18時すぎでした。

レンタカー会社に電話すると、パンクだけど、警察に通報してくれという。事故対応の手続きをとると言う。

え、ちょっと待って、警察?

「え、今から絶対に行かないといけないところがあるんです、警察を待てないんです」

とか、まあ、もう私は、完全にパニクってました。

時間がない!!!!

栃木まで来たんよ、みいちゃんのために。

ただのライブじゃないねん、17年間の集大成やねん、みいちゃんが頑張って1人で行くって決めたライブやねん、普通のライブに行くとかとは違うねん。このみいちゃんのチャレンジをなんで邪魔するん。なんで、なんで。

なんで昼間にパンクせーへんねん!

なんで会場つく30分前のここでパンクするんやーーーー。はめてるやろ、誰がはめてるん、誰や。

これは、映画か、夢か?

滋賀から来たんやー。滋賀から栃木まできたんやー

このライブに行かな意味がないねん、なんとかしてよ、なんとか。誰かなんとかしてよー!!

なんで滋賀やないの-、こんなとこだーれも知り合いいーひんし、迎えに来てもらう人もいーひんやん。なんで栃木でこんな事なんの。

ともう頭の中は、みいちゃんをライブに間に合わせないといけない、と必死。

ただ・・とりあえず段取りを踏まないといけず。

事故対応でのやり取りが10分ほどかかり・・

(はよして!と心の中で呟く)

電話越しの女性は、ゆっくりした口調で。

「今場所は、どこですか、タイヤは前ですか後ろですか、ホイルは大丈夫ですか?」

「ロードサービスの手配をかけようと思うのですが、もうこの時間なのでタイヤ交換を受付してくれる業者がおそらくないかと思うので車を引き上げます。」

という。

「待って待って、代車は?」

(ロードサービスなので、代車はありません)

「じゃ、どおするんですか、こんなところで私達、足ないです」

(そうですね、なんとかしていただくしかありません)

「待って待って・・このあとに予定もあるんです。ホテルにも帰れないやないですか)

「もうこの時間ではどうしようもないのです」

「ロードサービスを手配します。お客さまの携帯に電話を入れるようにします」

「事故対応を進めますので、警察に電話して管轄の署と担当の方の名前を控えてください」

「警察の現場検証をしてもらってください」

もうこの時点で、やり取りする時間がもったいないと思い、もう電話を切って、すぐに110番したんです。

「事件ですか!事故ですか!」

と警官が勢いよく電話に出た。

「えっと、えっと・・・事件です!(とっさに事故でないので、事件だと言ってしまい)」

「お怪我はないですか!」

「え、あ、ないです」「え・・あ、あのパンクなんです、すいません、電話しろと言われたもので。現場検証に来てほしいのです」

「今、道路上ですか?」

「焼き肉屋の駐車場です」

「わかりました、お客さまのGPSを確認しました、今向かっておりますが、道路上でない場合は、他の事件があった場合、他を優先する可能性があります」

「えー、そうなんですか。実は、いまから大切な大切な大切な予定があり、もう時間がないんです・・」

「少し時間がかかるかもしれません、いったんお待ちください」

あーー。もうだめだ。時間がない。

会場まで行けない・・みいちゃん、ごめんよ。

ここまで来たのに・・・栃木まできたのに・・・

とにかく、タイヤを変えよう。タイヤさえ変えたら、会場までいける。と車に予備タイヤが積んでないか確認。

ああああ、ない・・積んでない・・

交換や、交換してもらおう。

ロードサービスから着信。

「今向かってます、少し時間がかかります」

「交換できますか?今すぐでないと次の予定に間に合わないんです」

「タイヤ交換は、今の時間は難しいです。車の引取になります」

むりーーー! 電話を切ったらすぐに警察から着信が

「あと20分ほどでつきます」

あー、無理・・・遅い

電話きるとレンタカ-会社から着信が

「ロードサービスを手配いたしました。費用が発生する場合があるので借りられた営業所に電話をかけてください」

もうこの時点で、私の携帯は、ひっきりなしに電話がかかってきて、考える余裕もない状態でした。

「みいちゃん、間に合わん、考えて!」

と着信の合間の時間にみいちゃんに伝えました。

でももうだめや、もう開演まで間に合わへん・・・

とその時、横で、みいちゃんが携帯を出してきました。タクシー会社の番号がはいっていました。私の携帯がひっきりなしに電話がかかるので、みいちゃんが調べてくれていました。

もうタクシーしかないな。

「みいちゃん、ここから1人でいけるか?もうママは、ここからは一緒にいけへん」

「ここからは、1人で頑張るしかない。一緒に行けんくてごめん」

なんか戦場で怪我して動けなくなった母が、我が子に火の手が回る前に逃げろ、と言ってるようなそんなシーンでした。

みいちゃんは 「うん」 と言いました。

タクシー会社にスピーカーで電話してくれました。場所を伝え、すぐに来てほしい旨、スピーカー越しに伝えました。

「みいちゃん、もう、ママは、もうここでお別れや」

「もうすぐ警察もくる、車もなおらへん。どうなるかわからへん」

「でも今なら、ぎりぎりライブには間に合うかもしれん」

「栃木まで来たんや、ここからは行けるやろ、この先、どうなるかわからんけど。電話さえあれば、なんとかなる、頑張れるよな」

今生の別れのようなそんなかっこいいセリフだった・・

「行けるな」

(うん・・行ける)

「よし」

そうこうしていたらタクシーが着いたのです。若い男性の運転手でした。

もうこっちは、電話対応でいっぱいいっぱいで。

「下ろす場所はこの子が説明します。ライブなんです。私の車がもう動かなくて。間に合わせて上げてください。お願いします。」

「何分開演ですか?」

「19時開演です、間に合いますか?」

「この道はここから混むんです・・間に合わないかもしれないです」

「え、そうなんですか、なんとか間に合わせてあげてください」

「みいちゃん、もし間に合わへんかったら、ちゃんと説明して会場に入れてもらいや、絶対に入れてもらいや、ここまで来たんやからな」

(うん)

「これ、持っていき、多分、足りると思うから」

と2万円を渡しました。

「運転手さん、行ってください。あとは頼みます。この子は、少し言葉数が少ないですが、ちゃんと場所とかは携帯などで伝えられるはずです」

(いや、正直、言えた事などないです・・でも、もう信じるしかない)

そして、私とみいちゃんは、栃木という異国の地で、離れ離れになったのです。

この状況がわかりますか。

離れ離れになったことなどないのです。1人にすらなったことがないのです。

3時間後に合流ができない場合、大変な事になる。

私もここからなんとかしないと。

え、でもなんでこんな事なるん?

事故やないねん、パンクやねん。なんで今? なんで栃木で?こんなはめられたようなタイミングで?

これは、みいちゃんの自立のための演出か? え、夢か?

B級映画のワンシーンのようなこのシチュエーションなに?

そんな事を一瞬考えたものの、考える間もなく、怒涛のような電話の嵐が続きました。

みいちゃん、無事にたどり着きますように。

間に合わなくても会場になんとか入れますように。

神様、見守ってあげてください。

あの子は、自宅から200m以上の場所を1人で歩けた事がないんです。1人でタクシーに乗った事も一度もありません。17年間ないんです。自分でお金を払った事もないんです。

でも、1人で頑張ろうとしてるんです。だからどうか、あの子の願いを叶えてあげてください。

(続く)

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